nous letter
2010年3月11日 14:45

3月5、6,7日、アリストテレスと現代研究会(通称アリ研)の合宿が御殿場で行われた。第10回目にあたり、参加者もちょうど10名。この哲学の勉強会合宿は半年に1回開かれる。スタートから数えると、アリ研に早くも5年が経過したことになる。

100311-2.jpg勉強会はアリストテレスの主著のひとつ『政治学』を参加者が輪読し、段落ごとに座長の荒木勝先生がコメンタリーを加えながら読解していく講義スタイルで行われるが、そこに参加者が質問や感想をはさみ、ときにボケとツッコミの間合いで、アリストテレスの思考を「現代」と照らし合わせていく。今回の講義も、いつもながらに刺激的でスリリングであった。
アリストテレスという名前は知られてはいても、日本ではほとんどきちんと読まれてこなかったこの2300年も前の哲学者の、広範かつディープな思想のスゴサにその都度驚き、その射程が更新され、先へ先へ、奥へ奥へと伸びていく。そしてまた、出身地や世代や職場の異なる私たち参加者それぞれの、現代社会にたいする見方が広がり、一旦カオス化しながらそこにシグナルを探り当てるかのように、一見掛け離れた事象がつながり、深まっていく(ような気がする)。

今回の合宿では『政治学』の4巻の終わりまで読解が進んだ。
次回からは7巻に移り、『政治学』を最後の8巻に向けて読み継ぎながら、いよいよアリストテレス哲学の根幹に位置するとされる『形而上学』を徐々に繙いていくことになる。
次の5年、10年でどこまですすむことができるか。このせっかちな市場主義の世の中で、目立たぬながらもじつに遠大で途方もなく大それた企図である。
ちなみに荒木勝の翻訳・注釈による『政治学』全巻が、この夏ころ発刊される予定。
荒木教授によれば死ぬまでに(?)『形而上学』を完成させたいとのことである。

アリストテレスのテキストとは別に、「現代を読む」うえでの今回の課題図書は内田樹の『日本辺境論』であった。私は前から内田氏の本やブログのファンであり、物事の考え方や関心の向き方、嗜好に似ている部分があることをよく感じる。年齢も近いし、「フランス文学」出身だし、映画や音楽など同じ文化体験をしていたようだし(80年代の同じ時期、ともに世田谷区の尾山台に住んでいたことがあるのを最近知った)。昨年秋、たまたま担当した彼の講演をまとめる仕事でその姿を見かけ、一言だけ挨拶をかわしたことがあるが、これもたまたま本屋で見かけ読みはじめたばかりの最新刊『現代霊性論』(釈徹宗との対談)を合宿に持参した。荒木先生は鈴木大拙全集の『日本霊性論』が収録されている巻を持ってきていて、そこになにかがシンクロしたような、「霊性」が機能したような気がしたが、そんな気がしただけであろうか。まあ、この場合、「気」がはたらいた気がすればそれでよいわけなのだが。

100311.jpg参加者のひとりに美術史の先生がいて、勉強会の一コマに、ジャポニスム----フランス印象派やフォービスムにおける日本美術の影響をめぐる講義があり、恒例となりつつあるこのN教授の美術史講義も、合宿の大きな愉しみのひとつになってきている。
今回のこのテーマは、プログラムに予定されていたポーラ美術館の作品観賞に合わせたもので、講義のあと2台のクルマに分乗して箱根まで出かけた。
途中、あいにくの雨と霧で富士を拝むことはできなかったが、美術館周辺の葉のない樹木が水墨画のように幽遠に霞み、どこかスピリチュアルといってもよい風合を漂わせていた。
宿の研修所へは、近くの温泉の白濁した湯にみなでつかり身体を浄め(?)暖めてから戻った。この温泉巡りも、アリ研合宿では恒例のこととなっている。

なお、この合宿の最中、宿で参加者と懇談しているときに私のケイタイが鳴った。
私の耳に聴こえてきたのは、写真家で友人の小林洋治さんが亡くなったことを報せる、奥さまからの声だった。偶然にも、私と小林さんが携わったある仕事の話題が出ていたときのことである。
そのこともここに記し、記憶にとどめておきたい。
私は7日の夕方東京に帰り、翌8日の告別式に参列することができた。

私はこのところ、たまたま目の具合が悪く、合宿の間中ずっと半眼状態の涙目であった。
講義の合間には愉快な雑談が飛び交い、アリストテレスの「笑い」や落語、吉本漫才の話題も出て、そのときはじっさい涙が出るほど大いに笑いもした(そういえば、小林さんは落語が好きだった)。
そして、雨の美術館。
目の痛みと笑い、そして悲しみ……。
雨と涙がとめどなく流れた。


2009年9月 1日 11:24

長野県・諏訪でアリストテレスと現代研究会(アリ研)の第9回合宿が行われました。諏訪は2度目の合宿地となります。
あいにく私は仕事で愛媛県・松山への出張と重なり合宿への参加はできませんでしたが、『政治学』の読解やギリシャ美術史の講義、創意あるエクスカーションなど、ひらめきと高揚感に満たされた勉強会になった模様です。例によって、今回幹事を務められたN.I.さん(naohnaohさん)の「週末日記」から引用させていただき、報告の報告といたします。

28日(金)は、朝から第9回「アリストテレスと現代」研究会の諏訪合宿の準備をしました。午後2時半に全国各地から集まったメンバーが揃いました。二泊三日の合宿研修のカリキュラムは、「政治学」第4巻第12章の輪読から始まりました。
国家体制いかにあるべきか、というアリストテレス政治学の根幹部分のため、初っぱなから議論が白熱しました。第12章だけで3時間近くかけて議論しましたが、選挙を控えた時期故に中味の濃い話ができました。

夕刻、皆で山から歩いて下りて、まるみつデパート5階の「和みの湯」で汗を流しました。
その後、いつもお世話になっている割烹「一楽」で懇親会をしました。
生麩のずんだ和え、焼き茄子の大和芋蒸し・うに添え、アサリの酒盗和え・山芋短冊、ズワイガニと菊の花の胡瓜巻きの酢物、滝川豆腐、マグロ赤身・ヒラメ・ヤリイカ・甘エビの刺し身、ホタテしんじょの冬瓜巻き・射抜きゴボウ・煮タコ・オクラの煮物。
いずれも主の腕と熱意が伝わる料理でした。焼きおにぎりの茶漬けを食べてお開きとなりました。
今の季節に毎日打ち上げられる諏訪湖のミニ花火を見て、ホテルに行くメンバーと別れました。

諏訪合宿二日目の29日(土)は、朝8時過ぎからわが家にメンバーが集まり、前日に引き続き「政治学」第4巻第13章の国家体制のあり方に係る部分の輪読から始めました。O大学A座長による解釈を受けて、メンバーそれぞれの専門分野、経験からの意見が続出して、おおいに議論が盛り上がりました。
一段落してから、メンバーのT大学Nさんによるギリシャ美術史の講演がありました。テーマは「アルカイックとクラシック」、BC500年頃を境にギリシャ彫刻の表現がどう変わったのかを勉強しました。

午後からは恒例のエクスカーションで霧ヶ峰八島湿原に行き、秋の気配が漂う高原を散策しました。東俣林道を抜けて、御柱の木落とし坂を経て、六峰温泉の熱い湯に入りました。最初は熱さにしりごみしていた仲間も、湯のインパクト、入浴後の爽快感に満足した様子でした。
諏訪の街に戻って6時から居酒屋「ばんや」で懇親会をしました。料理も可愛いお姉さんのサービスもよく、オヤジ一同皆気持ちよく酔っぱらいました。湖岸まで歩いて、花火を見てから解散しました。

30日(日)は午前中に第14章の輪読、解釈と全体総括を行いました。来年3月に予定されている次回合宿は、御殿場、浜松を候補地とすることになりました。
メンバーを上諏訪駅に送ってから、もう1日諏訪に滞在するA大学Mさんと下諏訪みなみ温泉に行き、無人の掛け流し湯でゆったりくつろぎました。岡谷の「浜丑」で背開き、じか焼きの香ばしいうな重を食べ、買い物をして戻りました。
夕方から、Mさんと高知「酔鯨」吟寿、地元「御湖鶴」純米吟醸、東京あきる野「しろやま桜」を飲みながら、選挙報道を見て過ごしました。

2009年3月30日 17:21

3月の27日から29日まで、愛知県豊田市で行われたある哲学の勉強会に参加してきました。「アリストテレスと現代」研究会(通称「アリ研」)といえば本サイトの読者にはすでにおなじみのものかと思われますが(でもないか?)、例によってメンバーのひとりnaohnaohさんの「週末日記」から引用させていただき、簡単なひとつの報告(ログ)とさせてもらいます。

090401-2.jpgこの文には触れられていませんが、年2回の旅としてのこの合宿は、自分にとっても特別なトポスでありアジールだといっていたnaohnaohさんに、大いなる共感の思いとそんな得難い場に参加しうる縁を結んでいただいたことへの私的な感謝の気持ちを、改めて述べておきたいと思います。

27日(金)は休暇をとって三河で行われる「アリストテレスと現代」研究会の2泊3日の合宿に参加しました。年2回定期的に開催してこれで8回目になります。今回も全国から10人のメンバーが三河旧下山村の民宿「腰掛山荘」に集まりました。

ガイダンスの後の第1講は、東海大学N教授によるアテナイのアクロポリス、パルテノン神殿への美の巡礼。
城壁に囲まれたアテナイの門からアゴラ(市民広場)を通ってパルテノン神殿に至る祭礼の行列の目線でPPを使った説明を受けました。ポリスとアゴラ、神殿の関係、神殿の神々の関係、神殿のレリーフや構造から推察されるギリシャの生活様式、価値観などについてプレゼンをしていただきました。
3年後に「アリストテレスと美の巡礼」ツァーを実現させたいと、一同盛り上がりました。

夕食はイノシン肉のすき焼きを中心に、アマゴの刺身、コイの甘露煮、とも和え、イノシンの串焼き、タケノコなど山の幸が並びました。

28日(土)は午前中アリストテレス「政治学」第三巻を勉強しました。第五章から第十一章にかけてメンバーで輪読し、座長の岡山大学A教授による解釈、意見交換を行いました。国家体制のあり方、統治の形態について、現在の世界の状況と照らし合わせながら議論を重ねました。

昼前から稲武方面にエクスカーションに出かけ、夏焼温泉の温泉旅館「岡田屋」で一風呂浴びてから昼食をとりました。弱アルカリ泉の加温循環湯でしたが、塩素臭が余りなくゆったりと入ることができました。アマゴの塩焼き、唐揚げ、イノシシ鍋など山の料理を食べました。
飯田街道沿いの稲武の街を歩いてみました。瑞龍寺の樹齢400年近い枝垂れ桜を見に行きましたが、時期が早く咲いていませんでした。街道を歩くと民家にさまざまなお雛様が飾られていました。塩や絹や木材などの交易で栄えた街並みは、往時のおもかげをわずかにとどめているものの人気のない街でした。せっかくお雛様が飾られているのに、われわれ以外に歩いている人はありませんでした。小さな和菓子屋でこの地方独特の「からすみ」というういろうのような蒸し菓子を買いました。亡くなった父の好物でした。
帰りに足助を通って、徳川家康ゆかりの松平郷に行きました。松平東照宮にお詣りした後、徳川家康の産湯の井戸に立ち寄ってみました。苔むした石造りの井戸には葵のご紋が掲げられていました。
徳川家菩提寺の高月院にお詣りし、全員本堂に上がり法然上人の「一枚起請文」、御歌「月影」、般若心経を唱えました。浄土宗の高校出身者4名を中心に唱和しました。

「政治学」の夕講を行った後、ヘボ(クロスズメバチ)の子煮付け、アマゴの塩焼きなど郷土色豊かな料理を楽しみながら、今後の会運営について意見交換しました。

29日(日)は、10時まで「政治学」のまとめの講義を受けてから解散しました。次回は9月に諏訪で開催することになりました。

2008年9月10日 15:09

9月5〜7日、東京・青梅でのアリ研(「アリストテレスと現代」研究会)の合宿に参加してきました。

7回目の合宿で、全国から12名の参加者が集まりましたが、回ごとに少しずつ変化があり、それがまた楽しく、勉強になります。
ついつい変わらぬものと変わるもの、なにが変わらずなにが変わるのかというようなことを考えますが、変わるからこそ変わらぬものもだんだん透けて見えてくるようにも感じます。
出会いと別れ、そしてまた出会うということ。再び結びあうことのシアワセ。

ところで今回の合宿は、私流に一言でいえば、アリストテレスと赤塚不二夫とのスリリング(?)な出会いの場だったと総括されます(青梅には赤塚不二夫記念館があります)。
青梅という地での、アリストテレスと天才バカボン(のパパ)との、シュールな出会い。
それが美しかったかどうかは別にしろ、この両者の距離こそが思考の運動をもたらしもするかのような?
アリストテレスは「これでいいのだ」と言ったかどうか?

080910-2.jpg今回は、あまり写真を撮りませんでしたが、取りあえず一枚だけオヒロメして、簡単なギャグ風報告に代えます(毎度のことながら『政治学』読解を中心とした講義は、広範かつ濃密、また斬新で、とても簡単に要約できません。というか要約をはみでる部分にこそこの合宿の真価も、参加することの特権的意義もあるわけで…)。
被写体は参加メンバーのひとりで、バカ田大学の優等生でもありますが、プライバシーに配慮して顔は隠してあります。どこからか「赤い風船」がとんできた?

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石井 泉/いしい いずみ
東京出身。明治学院大学文学部フランス文学科卒。長きにわたり、出版社、編集プロダクションに在籍、主に科学・芸術関係の雑誌、書籍編集およびデザイン、公共施設の展示プランニング等を手がける。2006年に独立し、「エディション・ヌース」として事務所を開設。科学・芸術・哲学の領域を、横断的な視点で編集・表現していく感性と技を模索しつづけている。最近は依頼に応じてエッセイの執筆なども行う。
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