長春からの報告

2008年5月19日 11:43

 5月13日から17日まで、大学院の国際交流事業のため、長春に出張していました。今回は3度目で、多少の慣れを感じましたが、多くの発見がありました。幸い、行くときも帰るときもアリ研の服部さんと同じ飛行機となり、16日には大連で海鮮料理を一緒に堪能しました。

 爽やかな大陸の風、乾燥した空気、私は長春に行く度にポーランドで過ごした夏を思い出すのですが、今回もそうでした。
 13日、トランジットのため、大連で降りて市内観光をしましたが、同僚の中国人ジャン先生の案内で、ロシア人の疎開地を見物しました。岡山の倉敷のような美観地区として観光の名所になっているその通りは、ジャン先生によると、全部新しく改築されたもので、本物は路地に残っているということで、われわれ一行は路地見物に行きましたが、なんと、そこはまったくのスラム。明治の日清・日露の時代にロシアの貴族や高級官僚、技師が建てた邸宅の跡を、何十もの家族が共同で使用し,ぼろぼろのレンガの塀はそのまま、悪臭が鼻を突き、廃品回収の山が道路を占拠し、道は汚水が垂れ流されていました。
 その地区は大連中央駅の北側の裏手にあり、大連市全体からみれば林立する構想ビル街に近いところを占めているようです。

【大連】
 大連の語源がダーレイというロシア語だという話をジャン先生から聞かされ、町の起源となった広場を案内されました。たしかにその広場には西洋風の噴水があり、周りは市庁舎風の立派な建物が取り囲むように立てられていました。
 旧ロシアの帝国主義政策として、大連の町が建設され、19世紀末ー20世紀初頭にはロシア人やポーランド人貴族が革命政府の抑圧から逃れてここに住み着いたようです。ハルピンの町は、清朝時代には、事実上、ロシア人の自治都市のような統治が許されていたようで、6月のハルピン旅行が大変楽しみになってきました。ユーラシア大陸の一体性を実感しました。

【技術論議】
 今回は車にうるさいジャン先生、経済学部の国際経済のT先生や教育学部の彫刻のU先生も一緒だったことで、今回の旅は中国と日本の技術についての議論で盛り上がりました。
 ジャン先生は、中国で作ったFWの車は、本物のFWの車とはまったく違うというのです。確かに部分と部分のつなぎのずれ、塗装の精度など、なにか安っぽい感じがしました。ジャン先生曰く、トヨタが進出にためらったのもそうした懸念があった、ダイハツが以前ライセンス生産で中国で生産した車は不評でダイハツは悪い車の代名詞になった、とか。しかし中国市場の大きさを無視できず進出を決意したが、果たして本当にいい車をトヨタは中国でつくれるのか、中国人は細部に拘らない、大体がよければそれでよし、大量に物をつくればいい、という。
 U先生は、大連の有名商店が並ぶ町の遊歩道の石畳のズレを見て、中国人の作るものの大味さを指摘し、芸術作品としての字や彫刻でも、手抜きがおおくあり、芸術性に欠ける作品が多いという。芸術としての漢字の作品はむしろ日本のほうがはるかに優れている、という。

【義の欠如と国学】
 ジャン先生曰く、現在の孔子復興は、儒教が経済発展の倫理に役立つ限りで重視しているだけで、ほんとうに儒教の教えを広げるものではない、と。
 確かに、伝えられている中国の実情は、孔子の仁と義の雰囲気とはまるで無縁のような気もしてくる。今回、長春から吉林に移動した途中で目にした農民達の貧困ぶりは、吉林大学の私たちを接待してくれた2人の若い職員とは別世界に属していた。彼女らは、そのふわりとした髪型、スリムな身体、身に着けた小物から、都市生活を楽しんでいる日本の若者を連想させる。その1人はダンスの教室に通っているという。それに比べると農民は戸籍を持たず、土地所有権も保証されず、下水道も完備しない粗末なレンガつくりの家にすみ、都市に出稼ぎしても、都市の住民と看做されないため、都市での社会的保護をうけられず、子どもは正規の学校にはいれない、農民階級と都市階級の対立、といってもいいほどの格差がある、という。
 夜の接待の場で、吉林の国際交流課の係長の劉さんは、中国はこのままでは滅びる、義の感覚が失われ、富を求めて、人々は狂ったように競争し節度を欠いている、と嘆き、私にむかって義とはなにか、『大学』の明明徳とは、虚霊とはどういう意味ですか、中庸とはなにか、と訊いてきた。
 また先生から送られてきた金谷治の『論語』はわかりやすかったが,白川静の『孔子』は難解だった、とも言っていた。
 16日、大連で再会した服部さんは、大連市の市で四書のCDとテキストを購入し、私にそれを見せてくれましたが、その本の表紙には『国学』と書かれた文字がありました。なんでも塾のテキストとして使っているということでした。

荒木

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