Re: 異邦人

2008年7月 1日 14:07

蕎麦谷さんへの返歌

名古屋の下町のごみごみしたところで育った。親の職業で生活レベルが違い、社宅の友だちの家に行くとGEの冷蔵庫やテレビがあり目を見張った。
ちょっと何かいたずらをするとすぐ近所から親に苦情がきて、折檻された。
学校で女の子にちょっかいを出すと先生がわざわざ親に言いつけた。
小さな家の二階から鈴鹿の山に沈む夕日を見ながら、こんなところから早く出て行ってやると心に誓った。

いろいろあったが、東京の大学を選んだのは自分をデラシネにしたいと考えたから。
きっと異邦人として大都会は受け入れてくれると思ったから。
都会の吟遊詩人を気取って文学に傾倒した時代。
催涙弾で目を腫らしながらも、イデオロギーではなく、あの下町から、親から引継がれた身のうちのどろどろした何かに対して暴力的な反抗心をぶつけていた。
三島が自決した時、何かが自分の中で変化した。今もよくわからない何かが。

マスコミを目指していた自分が、なぜか故郷に近い会社に就職し、唯々諾々として仕事をすることになった。
地方での仕事にはすぐ飽きた。穏やかな山々も人情深い人々も内なる焦燥感を癒してはくれなかった。
海外勤務を希望したが叶えられず、東京に出た。
そして30年経った。

紀尾井町、世田谷、葛西と社宅を移り、10年前から和光に住みはじめた。
地元の友人はほとんどいない。
地下(じげ)の人が少なく、地方出身の人たちが住む無秩序に開発された新興住宅地。
地元に愛着がわかないし、住み続ける気持ちもあまりない。ここで育った子どもたちにも思い入れはない。

デラシネは水耕栽培の植物のようだ。
自分の記憶を堆積した腐葉土がない。
記憶の残るあの名古屋の下町も、もう風化している。

根を張る地べたも、帰る場所も失った都市漂流民は、いったいどこを目指すのだろうか。

伊藤

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