カンガエドコロ

→無藝荘後日談[2]『麦秋』を観て

先の『晩春』に続いて『麦秋』をじっくりと鑑賞いたしましたので、その感想を何時もながらのアトランダムで綴りたいと思います、、
 
〈1〉昭和26年に芸術祭参加作品として撮影・封切された『麦秋』は明らかに2年前の『晩春』の続編(姉妹編)として企画・制作された作品で それは家族劇としてのストーリーは言うまでもなく、配役や場面の設定など様々な面で明確に読み取れます

〈以下具体的に、、〉
a)まずタイトルそのものが 「春」にたいして「秋」です 
b)『晩春』は海岸に打ち寄せる波でエンドとなるが 『麦秋』はまさに海岸に打ち寄せる波の映像からスタートする(どういう訳かそこには 子犬が挿入されが、、、)
c)姓は変えてあるが主要登場人物の名前は同じ(父・娘・その女友達etc )
d)主な場面を構成する鎌倉の家が共に殆ど同じ造りのもの<但し『晩春』に頻出した、玄関を捉える画面に登場する「ミシン」(=不在の母の象徴)はここには出てきません> 
e)勤務地/東京と生活の場/鎌倉を列車で行き来する設定は同じ
f)同じ名前の飲み屋(多岐川)の登場
 
 <以下 おもに両作品を比較しながらの感想を披瀝していきます、、>
 
〈2〉『晩春』が最少家族だったのに対して『麦秋』の方は大家族を中心に据えてともに 結婚適齢期?の娘の結婚を機に家族(の一部)が離別していく様を描いていきます
 
 <『晩春』は基本的に二人の登場人物に焦点を合わせたストーリー展開で無駄のないほぼ完ぺきな造りだが、『麦秋』の方は人物が多いだけ少し話が込み入っておりまた様々な挿話もあり若干散漫な印象を与える>
 
〈3〉『麦秋』も制作された時代背景(戦後6年目でサンフランシスコ講和締結)をいやというほど感じさせる
   
a)戦争からの未帰還者の存在(原節子の次兄)
b)子供の多さ(戦後のベビーブーム)
c)朝鮮特需による景気の上向き、多少の社会の落ち着き
d)踏切に掛かった表示の英文併記(占領軍向け)
 
〈4〉多分観客として想定された様々な立場の女性達を考慮して、女優陣に彼女たちの共感を得る役柄(はまり役)を適格に演じさせている
    
  原節子=適齢期を少し過ぎた娘のあるべき姿
  東山千栄子=娘の幸せな結婚を案ずるあるべき母親の姿
  三宅邦子=大家族の中でのあるべき嫁の姿 => 舅・姑・小姑との関係
  杉村春子=男やもめの一人息子の行く末を案じるあるべき母親の姿
  淡島千景=婚期を逃す料亭の一人娘のあるべき姿
 
〈5〉日本文化・風景としては 歌舞伎や築地の料亭が登場し 鎌倉大仏と奈良の里山や屋敷、風に揺れる実りの麦畑など 日本のあるべき原風景が最後に堂々と描かれます
 
〈6〉新たに導入された視点としては 中央(東京)と地方(秋田/奈良)の問題が提示されます
 
  < これは 律令制時代から続く日本の基本的な問題構造です >
 
〈7〉東山千栄子の登場は、この後の『東京物語』を準備する役どころで、娘の結婚による幸せを願う あるべき日本の母親の姿を存在感溢れる(?)無表情で演じ切ります
 
  < チェホフ『桜の園』のラネーフスカヤ夫人以上の当たり役です >
   
  < 家族写真を撮る場面で、その後父・母の二人だけで撮るのは まさに『東京物語』への橋渡しの意味を持ちます、、、>
 
〈8〉家庭で大人だけでケーキを食べる場面が二度ほど出てきますが、小津はケーキのもつ華やぎ・贅沢さに敏感なようです、、、、、
 
  < 『晩春』でもケーキは重要な役割を持っていました、、、、>
 
〈9〉原節子が歳の離れた資産家の二男の縁談を蹴り、家族皆が懸念する子持ちの後妻を選択し秋田へ行くのは、相手の人柄、信頼性、確実性を重視する点で 女の幸せの観点からは説得的な合理的判断です
 
〈10〉適齢期の女性を 既婚派 対 未婚派で対比させたり、二人の幼い男の子達の反抗期を描いたりした、多彩な挿話の盛り込みときめ細かな演出は 芸術祭作品にふさわしい豊かな出来栄えです
 
〈11〉基本的に善人しか登場せず、多少の波乱や起伏のドラマはあものの全体に静かに時が流れて行く感じは、鑑賞後には充実した感動を与える秀作です
 
  < 逆に、そこが 時代に敏感な当時の若手映画人から疎んぜられた? 理由かも知れません、、、、>
 
〈12〉音楽は、女声合唱やオルゴールの調べが使われており、内容にふさわしい暖かく落ち着いたものになっています
 
〈13〉チボー家の人々」「麦と兵隊」など 言及される文学作品もよく考えられています
 
〈14〉2度ほど挟まれる「大空」の映像の意味は今一つ不明です
 
  <一つは風船が流れていき、一つは単なる秋の空です、、、>
 
 
『晩春』以上に纏りの無い感想になってしまいましたが、『麦秋』は繰り返し鑑賞する価値のある 見どころの多い素晴らしい作品です、、、、、(2011.10.9)
 

庵頓亭主人

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