ジャズのスタンダードナンバー、それもどちらかというとスローないわゆるバラードと言ってもいいような素敵な曲に『I hear a Rhapsody』というのがあります。
私はこの曲がとても気に入っていて、それも演奏者、聴く場所・状況が極めて限定されていての話です。
その極め付きの演奏とはLee Konitz(As)& Michel Petrucciani(P)のDuoでCDのアルバムタイトルは『Toot Sweet』。レーベルはOwl(フクロウ)です。
ジャズに関してはそれほどマニアックではない為、アルト奏者としてのLee Konitzの評価・位置付けに関しての薀蓄はありませんが、Leeは私がその生演奏に接した数少ないGig Playerの一人です。
2000 年の秋に5年ぶりでベルギーBrusselsに2週間程の出張に出かけた折、以前、約3年間当地に駐在していた時のひそみに倣って、早速夜の音楽イベントをあたった訳ですが、生憎クラシック関係は目ぼしいのが見当たらず、たまたまLee KonitzのJazz演奏会がなんとコンセールヴァトワールのホールで予定されているのを見つけて出かけました。
Brusselsのコンセールヴァトワール(王立音楽院)ホールは駐在当時何度となく訪れて、ピアノ・室内楽・小編成オーケストラの演奏会を楽しんだ想い出深い処で、誰の演奏会だったか忘れましたが、あの燃焼度120%、女流天才ピアニストのマルタ・アルゲリッチが、たしか 娘さんと客席に来ているのに出くわしたこともありました(彼女は当コンセールヴァトワールの至近、Av.Louiseの裏手にあるアパルトマンに居を構えている筈です)。
その夜のLee Konitzの演奏については、今ではもう正確には覚えていませんが、比較的若手のメンバーを従えて年齢の割に(たしか もう70歳近くで爺さんと言っても良いほどだったと記憶していますが)瑞々しい音色でもって、年輪を感じさせる悠然とした風格・味を出しつつ、また一方で結構若々しい演奏をしておりとても気に入りました。
ということで、早速その週末、これも以前から行きつけだったBrusselsのFNAC(日本での丸善/新宿紀伊国屋書店のような店)に出かけて、Leeのアルバムをあれこれ物色した際、偶々ぶち当たったのがこのアルバムなのです。
このアルバムは1982年のParisでの録音なので、多分二人とも円熟期(中年)にさしかかった時期で、大変に味のあるDuoを展開していますが、その冒頭に入っているのがMy favoriteの「I hear a Rhapsody」です。
さて、翌2001年は、あるプロジェクトの関係で一夏を南フランス、プロヴァンス地方への通り道にあたるローヌ河沿い、高速道路A7に面したValenceに滞在しました。
このValenceはLyonから南に車を飛ばして約1.5時間、人口数万人の典型的なフランスの地方都市ですが、将軍に成り上がる前のナポレオンが兵卒時代に駐屯していたとかで、またグルノーブルなどの山岳地帯への分岐点でもあり、以前から交通の要衝として栄えた今でもなかなか趣きのあるこじんまりとした、なんとも捨てがたい良い街です(因みにこのValence近郊には、パリからコートダジュール方面へ向かうTGVの停車駅もあります)。
ヨーロッパの夏は、経験者は良くご承知とは思いますが日差しが強いものの空気は爽やかで、また日照時間が長く北欧の白夜とはいかないまでも、ベルギー・フランス辺りでも9時過ぎまで結構明るくて、屋外に出てのオープンテラス・カフェでのんびりと食事や会話を楽しむにはまさに最高の環境を用意してくれます。
ここValenceの旧市街にも、Place de L'Universite、Place des Clercsなる広場が隣合ってあり、ご多分に漏れず夏の季節になると、その広場に面したカフェ・レトランが広場一杯に所狭しと椅子やテーブルを並べて観光客のみならず地元の人たちの家族連れ・グループ・カップルなどを得意客に盛大にビジネスに励んでいます(そして、当然のことながらこれらの広場は早朝から昼頃までは、曜日別に各種の市の場としてまた違った賑わいをみせるのです)。
私はこの夏の滞在の間にその広場の2、3のレストラン・カフェへ「きつけ」として何度となく夕食を楽しみに通ったのですが、そこに出かける前には必ずそこからすこし離れた市庁舎の脇に有る少しうらぶれかかったオープンカフェのテーブルに陣取って、冷え切ったBeerを1、2杯引っ掛けたものです(その行きつけのレストランのなかには、なんと Rablais(ラブレー)なんて名前の美味しい地中海料理屋もありました、、、、)。
滞在していた安ホテルからは、その日のFigaro紙を携えて(すらすらと読めないにしてもザーッとした世の中の動きは何とか捉えられるので)、そして私の外出・散歩・徘徊には絶対に欠かせないCDWalkman+数枚のCDも、、、。
そしてもうお解りかとは思いますが、その数枚のCDの中には必ずLee+MichelのDuoが入っていたわけです。
偶々、2001年9月11日(私の52回目の誕生日)は丁度Brusselsに居たのですが、翌日厳戒警備のAirportを発ってLyon空港に降り立ち、そのままなんとかValenceの街にたどり着いた時は、なにかもう馴染んでしまった雰囲気にホッとした安堵感なども感じたものでした。
多くの人々のその世界での在りかた、見方を根源的に変えてしまったあの瞬間(9/11)を踏まえて今にして思うのですが、そのときのValenceの街で感じた安堵感は、なにものにも替えがたい貴重なものでありました。
そして、世界全体がグローバリズムとかいうひたすら効率を求め、結果として成熟して行く時間をすり減らす狂想的な動きの中で、夏から秋にかけての夕暮れ時に、フランスの地方都市でBeerのほろ酔いとともに成熟しつつある(あった)2人の大人のRhapsodyの世界に浸ったことは、本当に忘れがたい宝物の経験でした。
今も、そのCDはときたま鞄にしのばせて、会社帰りの夕暮れのBack Musicとして楽しんでいます。Valenceでの一夏を懐かしむ、縁として、、、、、、、、。


